vol.7 ●初めてのおつかい in ハーレム

Fat Tuesday Air Line
                     ←Previous  Next →     
あっぱれハーレム、へっちゃらニューヨーク!!


vol.1
vol.2
vol.3
vol.4
vol.5
vol.6
vol.7
vol.8

 旅にでると、とにかく私は街に出る。
その街の空気に体と感覚を慣らすために
昼でも夜でも。
とにかく街に出て、ひたすら歩くのだ。

ハーレムの朝。
いつもの階段のドタバタと、朝から聞こえる歌声に起こされた私は、
とりあえず朝ごはんを買いにいこうと、アパートの1階にあるボデガ(※)に行ってみた。
到着したときはわからなかったのだが、
下にボデガがあるから買い物はそこが便利だよ、と
ルームメイトであるNちゃんに教えてもらったのだ。

とにかく初めてのハーレムステイ。
ホテルに泊まる旅行者ではなく、ハーレムの住人として、
この町で最初の朝ごはんを買わなくてはならないので
(かなり大げさだけど、とにかく何事も挑戦なのです)、
ドキドキしながら扉を開けた。

 もわっとしたあったかい空気が顔を包む。
扉の向こう、そこは、おっちゃん達の朝の社交場だった!!
新聞を買う人、コーヒーを買う人、配達に来た人、
立ち話しながら今朝のニュースについて討論する人。

外は冷たい風が吹く冷え切った12月のハーレムなのに、
店の中は人の熱気でムンムンしていた。

よし、これならどさくさにまぎれて買い物ができる! 
扉を開けるまではビクついていた私だが、
何度も来たことがある風を装って、ゆっくりとパンの棚を探しながら
店の中を歩いてみた。

おおっ、あるある、いろんなものが。
洗濯石鹸や歯ブラシ、電池にストッキングに缶詰、
どぎつい色のお菓子やグミなど、生活用品から食品まで何でもある。

なかでも目を引いたのは、コーンブレッドを作るためのトウモロコシ粉や
マカロニチーズの素。黒人が愛するソウルフードの食材だ。
200年前、奴隷として働いていた彼らの先祖が、
主人が食べ残したものを煮たり揚げたりして工夫をこらしながら、
自分達の料理として生み出したソウルフード。
今は気軽にインスタントで食べられるのか〜、と
おやじの社交場でひとり感動する日本人女子がひとり。
あんなにドキドキしていたのに、もはやここが本当に
自分の行き着けの店みたいな気分になってくるから面白い。

新聞を読んでいるおじいさんに、にっこり笑いかける余裕まで出てきた私は、
最初の目的を遂行するために、
パンとオレンジジュースを手にとってレジへ向かった。

レジへ行くと、雑談していた店のおじさんが満面の笑みを浮かべて
「Hi! ベイビィ〜!」。

べべべ、ベイビィー!

今、ベイビィーといいましたか、あなたは。

いくら日本人が若く見えるとはいえ、私にどう返答しろと!?
変な焦りとこみ上げる笑いとで、舞い上がってしまう!

とにかく「ハ、Hi !」と答える私に、
「どこから来たの? 日本人?」とさらに聞いてくるので、
「いえす」といっておいた。

すると今度はもう一人のおじさんが、
「君は若く見えるけど、いくつなの?」と聞いてくるので、
私は正直に自分の年齢を答えたら・・・。

翌朝から、私を見てもベイビーとは言わなくなった。

おじさん、正直すぎるよ。

※デリのこと。黒人やラティーノ地区ではデリをボデガと呼ぶ